「不妊治療による早退や休みが多くて肩身が狭い」「不妊治療中であることを会社に言えず、誰にも相談できない」と感じる人は多く、実際に不妊治療を理由に退職した人は少なくありません。不妊治療への保険適用など少しずつ環境の整備が始まっているものの、仕事との両立を考えるとまだまだ課題が多いのが現状です。
本記事では、不妊治療と仕事の両立について解説します。不妊治療しながらできる仕事や両立のコツにも触れているので、ご参考ください。
もくじ
結婚後も働く女性が増えるにつれて、不妊治療をしながら仕事を続けることは珍しくはなくなっています。
不妊治療をする夫婦が増えた背景には、晩婚化があるとされています。また、働く女性にとって、キャリアはとても大切な問題といえるでしょう。タイミングを迷ううちに、妊活を始めるのが遅くなったという女性も少なくありません。
厚生労働省によると、不妊治療の経験がある夫婦は全体の18.2%とされています。さらに、仕事と不妊治療の両立ができず、16%の女性が退職を決断しています。
仕事を辞めてしまうのは女性にとって非常につらいことですが、企業としても人材を失うのは避けたいところでしょう。不妊治療と仕事の両立は、いまや社会問題となっています。
ここでは、不妊治療と仕事の両立が難しい理由を解説します。思わぬ要因が両立のハードルになることもあるため、事前に課題になりやすいポイントを探っておきましょう。
不妊治療のためには定期的に婦人科等へ通院する必要があり、その度に遅刻・早退・欠勤などの取得を余儀なくされます。可能な限り有給で対応しようにも、治療法によって通院回数が異なるため「あっという間に有給を使い果たしてしまった」などの課題も生まれます。
また、頻繁に有給を取ることについて良い顔をされず、職場で居心地の悪さを感じることもあるでしょう。不妊治療だからといって通院回数・頻度を一律で揃えることもできず、個々人により対処が異なる点も、理解を得られにくいポイントとなっています。
不妊治療は、通院1回当たりの治療・施術・処置・カウンセリングの時間が短くて済むケースもあれば、長くなってしまうケースもあります。例えば体外受精のために卵巣を刺激する場合、数日間にわたって通院し、卵胞の大きさを確認したりホルモン値をチェックする必要があります。麻酔が必要となる治療や事前準備が多い治療の場合、当然ながら費やす時間も長くなるでしょう。
結果、丸1日仕事を休んだり、半休では対応できない微妙な時間帯になってしまったりすることも少なくありません。通院1回あたりの負担が大きければ大きいほど、仕事との両立には支障が出ることが多いのです。
予定面では問題なく仕事に向かえる日であっても、体調が万全とは限らないのが不妊治療です。例えばホルモン治療を伴う場合、慢性的な吐き気・疲れ・頭痛・気分の上下など複数の症状が出ることがあります。採卵後や移植後の痛みや精神的なストレスが加わることもあり、常に100%のパフォーマンスで仕事ができるとは限りません。
とはいえ、出勤している以上はいつも通りのパフォーマンスを求められることも多いです。ミスやクレームが続いて職場に迷惑をかける状態が続いては、仕事面でのストレスも追加されて心穏やかに過ごせないこともありそうです。
不妊治療は自分や夫の体調だけでなく将来的な家族計画に関わることであり、センシティブな内容だからこそ気軽に相談できないものです。「非常にプライベートな問題だからこそ職場に相談できない」「個人的なことで職場に迷惑をかけるのは申し訳ない」という気持ちから、不妊治療中であることを職場に伝えていない人も多いのです。
また、不妊治療が長期間にわたる場合、成果が見えにくいこともあって上司や同僚に頻繁に説明を求められることもあるでしょう。心から心配しての発言であっても、時にはマタニティハラスメントであるように感じられてしまうこともあり、「どこまで」「誰に」相談するかが難しい点となっています。
職場に不妊治療中であることを打ち明けても、必ずしも理解を得られるとは限りません。不妊治療に詳しくないからこそ「定期的に病院に行くだけでしょう」「不妊治療は女性側の問題だから」という発言が出てくる可能性もあり、同じ温度感を求めるのは困難です。また、業務への影響を心配して良い顔をされなかったり、産休や育休制度のようなサポートがなかったり、制度面もまだまだ追いついていないのが現状です。
結果、居心地が悪くなって離職してしまう人は少なくありません。不安やストレスを抱えるなど、メンタル面に良くない影響が出てしまうこともあります。
不妊治療中はつい「仕事を辞めて不妊治療に専念しようか」と考えがちですが、無理のない範囲でなるべく仕事と両立するのが理想です。もちろんどうしても難しい場合は退職を視野に入れて問題ありませんが、ここではなるべく両立するべき理由を解説します。
不妊治療はその内容によって費用が大きく異なりますが、特に体外受精(IVF)や人工授精(IUI)などの高度な治療は高額になることがあります。令和4年4月から人工授精等の「一般不妊治療」および体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」に健康保険が適用できるようになりましたが、それでも自費となる費用は決して少なくありません。通院に必要な交通費、仕事を休むことで発生する欠勤控除までは健康保険でカバーできず、金銭的な負担はどうしても重くのしかかります。
一方、仕事を続けていれば安定した収入が得られるため、不妊治療費をカバーしやすくなるのがメリットです。「お金が足りないから不妊治療を諦めよう」という不本意な結果に終わることもなくなり、納得できるまで治療に挑戦しやすくなるでしょう。
(※)参考:不妊治療に関する取組|こども家庭庁
仕事を続けて収入を確保することは、不妊治療費だけでなく生活費の捻出や貯金にもつながります。もしも治療後の安静期間や体調不良で休養が必要な場合、収入が一時的に減少しても貯金があれば十分に対応できます。生活費や家計を安定させることができ、治療と生活のバランスも取りやすくなるでしょう。
また、不妊治療が成功した後には妊娠・出産・育児が待っているため、お金がたくさんあって困ることはありません。十分な経済的余裕があり、生活費や治療費を確保できれば、金銭的なストレスを軽減できます。
産休・育休制度は、妊娠・出産を控えた女性にとって大きな助けとなります。妊娠・出産で働けない期間でも健康保険組合やハローワークから資金的な援助を受けられるので、金銭的な支援をとなるのは間違いありません。不妊治療後の体調回復や生活準備に集中でき、仕事復帰後も育休後のサポートが受けられるため、経済的な面で安心感があります。
反対に、妊娠前に仕事を辞めてしまうと、当然ながら産休・育休の対象外となってしまいます。出産前後の無給期間は貯金で賄うしかなくなり、金銭的にもキャリア的にもデメリットが多くなるので注意しましょう。
不妊治療を受けながら生活していると、精神的な負担や体調の不安定さから孤独感を感じることがあります。仕事を続けることで社会的なつながりを保つことができ、働くことがストレス解消のひとつになるかもしれません。「人に必要とされている」「自分で働いてお金を稼げている」という満足感も社会的なつながりから生まれる充実であり、不妊治療中のメンタルやモチベーションにつながります。
職場の環境が良くないと働き続けることが却ってストレスになる場合もありますが、関係性が良好であればむしろ仕事は続けた方がよいでしょう。今は迷惑をかけるシーンが多くても、将来的に子どもの手が離れたときや同じように不妊治療に悩む若手社員が出てきたときに助けとなることが、恩返しにつながります。
長期間の不妊治療を受けていると、治療に集中するあまり、仕事を一時的に休むことやキャリアの停滞を感じることがあるかもしれません。しかし、仕事を続けることで、将来的にキャリアの中断を最小限に抑え、長期的な視点で見たときにキャリアの成長や発展を保てます。スキルと知識を継続的に向上させることができ、ブランクもないため転職・再就職にも役立ちます。
反対に、一時的に仕事から離れるつもりで離職しても、実際には何が起こるかわかりません。場合によっては数年単位の離職になってしまってなかなか復職できず、再就職のハードルも上がって正社員に戻るのが難しくなってしまうこともあります。
であれば仕事を続けて産休・育休を取り、復職先を確保した状態で妊娠・出産に臨むのが理想です。
ここでは、不妊治療しながらできる仕事の特徴を解説します。以下の仕事であれば比較的両立しやすくなるので、覚えておきましょう。
以下のように不妊治療を応援している会社の仕事であれば、比較的両立しやすくなります。
会社によっては、不妊治療向けの福利厚生を充実させていることもあります。例えば不妊治療を目的として最長1年間の休職ができる会社や、不妊治療に伴うお休みを「欠勤」とせず有給を適用できる会社なども出てきました。制度面による支援だけでなく、快く休みを認めてくれる社風や協力的な上司など、ソフト面での支援も大いに助かる要素となるでしょう。
テレワークできる仕事であれば、通勤時間を短縮できるため短時間の通院・治療であれば欠勤することなく両立できるケースがあります。通院先である病院の近くにあるコワーキングスペースやサテライトオフィスを活用すれば、さらに時間効率がよくなるでしょう。時間や場所に縛られない職種の場合、通院時間分の仕事を夜間に回すなど工夫して業務をこなすことも可能です。
何かと体調のバランスを崩しやすい不妊治療期間中は、通勤時間をなくして体力温存に努めるのがおすすめです。満員電車で具合が悪くなる、など思わぬトラブルの回避策としても役立ちます。
フレックスタイム制度が使える仕事であれば、午前中に通院して、午後から仕事を始める、などフレキシブルな活用が可能です。出退勤時刻の調整ができるため、欠勤日数の多さから不妊治療中であると周りに伝わってしまうこともありません。
その他、短時間勤務制度を使って労働時間を短くする方法もあります。不妊治療を受けながら働き続けられる環境が整っていれば、無理に不妊治療中とカミングアウトすることもなく両立できそうです。
ここでは、不妊治療と仕事を両立させるコツを解説します。以下の点に配慮しながら、無理なく不妊治療を続けていきましょう。
テレワーク、フレックスタイム制度、裁量労働制、短時間勤務、などフレキシブルな働き方の幅は年々増えています。定時勤務に縛られない働き方の方が両立しやすそうな場合は、早めに職場へ相談して切り替えを検討してもらいましょう。
治療に専念しながらも、職場での業務を効率的にこなすことができれば、仕事に穴を開けることもありません。治療の進行具合によって体調が変動するときでも対応しやすく、思わぬトラブルを避けられます。
勇気が要りますが、思い切って身近な上司・同僚に不妊治療中であると打ち明けることもひとつの手段です。想像していたより柔軟に受け入れてもらい、最大限のサポートを受けられるかもしれません。特に、治療のために休みを取る必要がある場合や、体調が不安定なときには上司のサポートがありがたく感じられることも多いでしょう。
また、あらかじめ欠勤が増える理由について説明しておくことで、「仕事に対する意欲が低い」「やる気がない」と誤解されてしまう可能性を防げます。信頼できる人にだけ打ち明けるなど工夫し、仕事への影響を最小限に伝える対策として「相談」をベースに話していくのがおすすめです。
早朝や深夜の勤務・数日の泊まりを伴う出張を外してもらうなど、仕事の負荷を軽減してもらう方法も効果的です。不妊治療中は「明日また来てください」など急に通院予定が入ることも多く、数日通院できない状態になってしまうのは死活問題となることが少なくありません。また、早朝・深夜の出勤により不規則な生活リズムになってしまうのもあまり望ましくなく、できれば一定のリズムで就労することが理想です。
身近な上司に相談し、仕事の負荷を軽減してもらえそうであれば、遠慮なく依頼してよいでしょう。不妊治療中は身体的にも精神的にもストレスがかかりやすいので、無理をしないことが大切です。
就労中であることを医師に伝え、できる範囲で治療スケジュールを早めに確定してもらうのもおすすめです。治療期間やスケジュールを予測できる範囲で決めておけば、あらかじめ有給を取ったり業務のペースを調整したり、努力しやすくなります。繁忙期を外してもらう、体調不良に備えて金曜日や土曜日など公休日の前に治療をする、などの工夫ができるケースもあります。
とはいえ、完全にどちらも諦めずに不妊治療を続けることに、限界を感じるときがくるかもしれません。治療のスケジュールに基づいて自分なりの優先順位をつけるなど、工夫も必要です。
不妊治療中に何よりも優先すべきことは、自身の体調とメンタルです。治療の影響で心身に負担がかかることが多いため、無理をせず、できる範囲での自己管理に努めましょう。どうしてもしんどいと感じるときは仕事を休んだり、家事を後回しにして休養したりすることも大切です。適切に休養を取ることが、最終的に自分にとってのメリットになるかもしれません。
不妊治療中はどうしても思いつめることが増えるものですが、夫婦で家事負担や心理面を支えあうことが大切です。不妊治療は身体的・心理的負担が大きく、仕事とのバランスを取るのは簡単ではありません。しかし、夫婦で支え合い、家事負担や心理面をうまく調整することで、少しでも負担を軽減しやすくなります。
どうしても体調が悪い日は家事を任せて休養したり、時には通院以外でゆったり過ごせる夫婦の時間を確保したりするのもよいでしょう。仕事や治療の進捗、感情の変化についてお互いに定期的に話し合うなど工夫し、いつも以上に密なコミュニケーションを意識するのもおすすめです。
時短正社員とは、正社員としてのポジションはそのままに、労働時間を短くする働き方です。労働時間を短縮することで身体的・心理的な負担を軽減し、治療に専念できる時間を確保しやすくなるのがポイント。パート・アルバイトなど非正規雇用に切り替えて働くよりキャリアを維持しやすく、妊娠・出産後のキャリアを考えてもデメリットを抑えられます。
自分自身の健康と、将来に向けたキャリアのバランスを見極めながら、最適な働き方を選んでいきましょう。
不妊治療と仕事の両立は簡単なことではありません。ストレスをためながら今の仕事を続けるのであれば、思い切ってフレックスやリモート勤務など柔軟な働き方ができる企業に転職するのも良いでしょう。また、時短正社員として転職して、子どもがある程度大きくなるなどひと段落ついたときにフルタイムへ戻すのもひとつの手段です。
また、今の会社ではあまりにも不妊治療への理解がなく、居心地が悪すぎるという場合にも転職を検討できます。産休・育休取得を希望するなら転職のタイミングも大切になってくるため、転職エージェントなどプロのアドバイスも得ながら戦略的に転職活動するのがおすすめです。
不妊治療を機に転職を検討するのであれば、時短正社員に強い転職エージェントの利用がおすすめです。文字通り「時短正社員」として転職できる求人が多く集まる他、テレワークやフレックスタイム制度のある求人割合も多いので、働き方を第一にできるのがメリット。ワークライフバランスを取りながら正社員としてのポジションを維持できるので、不妊治療が実を結んで産休・育休を取る場合のハードルもありません。
リアルミーキャリアは、時短正社員に特化した転職エージェントです。不妊治療中の方はもちろん、ワーママや働き方を変えたい方の利用率も高いので、お気軽にご相談ください。
不妊治療は、肉体的にも精神的にも大変なものです。治療と仕事との両立が難しいと考えている女性は多いでしょう。そのようなときは思い切って働き方を見直してみましょう。テレワークやフレックスタイム制度を使える会社に転職したり、時短正社員として転職したりする手段も効果的です。
不妊治療は人生の一大プロジェクトです。悔いがないように働き方を考えてみませんか。