産休・育休から復帰し熱意を持って仕事に当たっていても、いつの間にかマミートラックにおちいってしまう人は多いものです。仕事へのモチベーションが下がったり、理想的なキャリアパスを歩めなくなったり、思わぬ落とし穴に悩むこともあるでしょう。
今回は、マミートラックに関する体験談を紹介します。
記事後半ではマミートラックからの脱却法にも触れるため、ぜひチェックしてみましょう。
「マミートラック」とは、子育てと仕事の両立はできるものの出世や昇給が望めず、ワーキングマザーのキャリア展望がひらけないことを指します。育児中の女性が単調な業務ポジションに転向させられたり、出世コースから外されたりすることが原因で起こります。
マミートラックの「マミー」はお母さん、「トラック」は陸上競技場で走る周回コースのこと。トラックの同じところをぐるぐる走って出世が見込めないことが「マミートラック」が語源です。
「マミートラック」という言葉自体は、もともとは1988年にアメリカで生まれたものです。もともとは、ワーママが育児と仕事を両立しながら働ける環境を企業が整えることを「マミートラック」と呼んでいました。
最近では女性の活躍を阻むネガティブな言葉として認知されていますが、もともとは育児と仕事を両立させるためのポジティブな言葉でした。
ここでは、マミートラックに悩んだ正社員ワーママの体験談を紹介します。
(30代後半 子ども2人 製薬会社営業)
第一子のときに時短勤務制度を利用して、営業職に仕事復帰をしました。しかし時短勤務制度はあるものの、運用方法がしっかりと確立していないものでした。時短勤務でも売上ノルマはフルタイムのときと変わらず、人事考課も時短勤務を考慮したものではなくフルタイムの成果を基準としたものでした。
当然フルタイムの同僚に比べて成果を出すことができず、評価も下がってしまいます。仕事内容が同じなのに、時短勤務というだけで給料も評価も下がってしまい、マミートラックにはまったと感じました。モチベーションを保つことが難しくて、頑張っても報われずつらかったです。
結局モヤモヤを抱えて働き続けながら、第二子を妊娠・出産。復帰後も引き続きマミートラックが続き、現在第三子目を妊娠中です。
第一子のときから数年経っていますが、ワーママの働き方に関する社内の状況は変わっていません。会社には、時短勤務に対する働き方改善を訴えているところです。次に復帰するときには、時短勤務をやめてフルタイムに戻すことも検討しています。
(20代後半 子ども1人 メーカー事務)
自社初となる産休・育休を取得させていただき、感謝の気持ちとともに復職しました。子育てに理解のある職場であり、子どもが体調を崩して仕事を休むときも誰ひとり嫌な顔をすることなく、最大限サポートしていただけるのでとても助かっています。
しかし、「子育てを第一に考えて」という配慮が強すぎると感じるシーンも少なくありません。今日中に片づけたい仕事があるからと少しだけ残業しようとしていたら、「今すぐ子どもを迎えに行ってあげないとかわいそう」「そんなことは私たちがやるから任せて」と言われます。「いつでも休んでいいからね」と言われすぎて、もはや自分がこの会社にいる意味はないのではとすら思ってしまいます。
本当は子どもがいても当たり前にバリバリ働き会社を引っ張っていけるような人になりたかったのですが、今は会社におんぶにだっこ状態で、とても貢献できているとは思えません。ママ社員だからと職場いじめに遭ったり、子どもの有無に関係なく無理なノルマを課せられたりするより、よっぽど恵まれていることは分かっています。それでも、上司や先輩社員の言う通り今は子育てに専念してしばらく専業主婦でいた方がいいのかなと最近は考えてしまいます。
(40代前半 子ども1人 カルチャースクール講師)
出産前は、子どもが生まれてからもこれまで通り働きキャリアアップすることを夢見ていました。子どもの世話をするため急に休みをいただいたりすることがある以上、出産前以上に頑張らなければとニュースのチェック・トレンドやユーザーの分析・生徒からのフィードバック反映などできることは何でもしてきたつもりです。
しかし、育休から復帰して数ヶ月して気づきましたが、明らかに割り振られる業務量が以前より少なくなっています。担当する生徒の数が少しずつ減っていたり、大きなプロジェクトに指名されなくなったり、違和感を覚えることが増えました。いわゆる「干されている」ような状態とは感じませんが、会社側も手探りなのだと思います。このままなんとなく働き続けてしまうと、給料も役職も上がらないのではと不安です。
実際にママ社員でありながら高く評価されている先輩がおらず、この会社で自分のキャリアが作れるだろうかと焦る気持ちも出てきました。
(30代後半 子ども3人 Webデザイナー)
1人目を産む前から、先輩社員の姿を見てきてマミートラックがあるだろうなとは感じていました。産休・育休を複数回挟みながらではありますが自分が最大限活躍できる働き方を模索し、少しずつ責任のある仕事も任されるようになっています。会社も実績や成果で評価しようという動きに変わりつつあり、私にとってはとてもありがたいと感じることが多いです。
後から知ったことですが、同じくママ社員として働く同僚のなかには、マミートラックを歓迎している人もいるようです。「最低限生活できるだけのお金さえもらえればキャリアアップできなくても構わない」「無理に成果を求められるより簡単な仕事だけこなしていたい」と思うからこそ、今のままでよいと感じているのだと思います。
どちらが正しいというわけではありませんが、本気でマミートラックから脱却したい人がいることを知ってほしいなと感じました。
前述した事例からも分かる通り、マミートラックにデメリットを感じている人が多いです。ここからは、具体的にどのようなデメリットに悩まされるのか確認していきましょう。
マミートラックに入ると出世コースから外れてしまうため、昇進・昇格が遠ざかります。わずかな昇給しかできず、勤続年数や成果に応じた評価がされないことも多いでしょう。
なかには後輩社員にどんどん抜かされて落ち込んだり、年下上司ばかりになって居心地の悪さを感じたりするケースもあるようです。
正当な評価をされたうえで後輩に抜かされるのであれば、ある程度は納得できます。しかしマミートラックにおちいって評価されづらくなった場合、会社への不満が溜まりやすくなってしまうでしょう。
子どもの急な体調不良による欠勤・家族都合に合わせた退職に備え、単調な仕事ばかりを任せる会社も多いです。パート・アルバイトでもできる仕事ばかりになり、スキルアップできないと感じることがあるでしょう。勤続年数を積んでも知識や経験が身につかず、その後の転職時にマイナスとなる可能性もあります。
「こんな仕事を担当した」と胸を張って言えるようなことがないと、やりがいも失いやすくなるため注意が必要です。
大規模なプロジェクトのメンバーに選ばれなくなった、責任のある仕事を任されなくなった、と悩む人もいます。実績につながる仕事を担当できず、さらに社内で評価されなくなるという負のループに突入することも多いでしょう。立候補をしても指名されない状態が続き、いつの間にか立候補するモチベーションすら失ってしまうことも少なくありません。
どんどん評価される同僚と責任のない仕事ばかり担当している自分とを比較してしまい、気分が落ち込むこともありそうです。
上記のような状態が続くと、仕事にやりがいを感じられなくなってしまいます。お金のためだけに働こうと割り切ったつもりでも、ふとした瞬間に「なぜここまでつらい思いをしながら働いているのだろう」と我に返ってしまう人も多いのです。
特に子どもが体調を崩してなかなか出勤できないときや、「保育園に行きたくない」と登園を渋られたときは、なおさら働くモチベーションを見失いやすくなります。やりがいがないことを原因に、退職してしまうワーキングマザーも少なくありません。
いざ子どもが大きくなって再就職しようにもブランクがあることがネックとなりなかなか仕事が決まらず、後悔する人がいるため要注意です。
出産前の働き方とマミートラック突入後の働き方を比較してしまい、落ち込んでしまう可能性もあります。「自分はもっと優秀な人だったはず」「こんな働き方しかできないのは不本意だ」と感じ、焦りやイライラが募るでしょう。
ときには出産前と同じ働き方をしようと無理しすぎるあまり、自身の体調や家族と過ごすプライベート時間にまで影響が出てしまうこともあるのです。自分が考える理想のキャリアと、現実的にどこまでできるかを照らし合わせながら、長い目でキャリア形成する視点が求められます。
では、マミートラックから脱却するにはどうすればよいのでしょうか。下記では、マミートラックから抜け出す方法について解説します。
会社から指示されたことだけをこなす「やらされ仕事」ではなく、自ら仕事を獲得する動きを取ることが大切です。
例えば自社の課題や問題点を見つけ、解決するための施策を提案し続けてもよいでしょう。市場の動きやトレンドの分析を続けながら、新しい商材の企画・開発に着手してもよいかもしれません。
プロジェクトチームとして実行部隊になるのが他の人であっても、意見自体に価値があると思われれば高く評価してもらいやすくなるでしょう。自ら仕事を探し続ける姿勢自体も、周りにポジティブなイメージを与えるため一石二鳥です。
「マミートラックから抜け出したい」「もっとバリバリ働きたい」など、キャリアの展望を会社に伝えるのもひとつの手段です。子育て中の社員が負担なく働けるよう、よかれと思って業務量を調整している企業は意外と多いものです。
もっとキャリアアップしたいというハングリー精神を見落とし、最低限の仕事だけを与えたためにミスマッチにつながっていることを知ってもらいましょう。出産前と同じ働き方に戻してもらえるなど、相談がきっかけとなり見直しされることもあるのです。
ただし、急な欠勤・早退に備え、あえて業務量を調整している会社もあります。願いが100%聞き入れられるとは限らず、自らハードルを上げる取り組みにもなるため慎重に判断する必要があるでしょう。
10年単位のキャリアパスを考え、目先の働き方にとらわれないようにすることも大切です。現在マミートラックにおちいっていたとしても、子どもがある程度手を離れたタイミングで大きなプロジェクトを任されるよう返り咲く人もいるでしょう。
無理のない範囲で仕事を続け、生涯年収を確実に伸ばし続ける人もいます。反対に、マミートラックがつらいからと一時的なつもりで退職したものの、その後の再就職が叶わずキャリアを失ってしまう人もいるのです。
どうしても出産前の働き方や理想的なキャリアと照らし合わせてしまいがちですが、今が耐えどきと割り切って働く視点も持ってみましょう。
収入の減少やキャリアの喪失が心配なのであれば、副業する方法があります。自分のペースで仕事を得られるため理想的な働き方になりやすく、キャリアアップや収入アップも見込めます。
ただし、フリーランスとして活動できるだけのスキルがない場合、思っていたように稼げないため注意が必要です。フリーランス用の勉強時間ばかり嵩んで却ってプライベートの時間を阻害したり、本業に集中できなくなり共倒れになったりすることもあるため対策しておきましょう。
思い切ってマミートラックがない会社に転職することも可能です。マミートラックは全ての会社で発生していることではなく、ワーキングマザーでも正当な評価を受けキャリア形成のためステップアップできる会社があります。
そのような会社に転職できれば、理想とするキャリアを歩むきっかけとなるでしょう。今の会社のままでは10年後も自分が成長できなさそうな場合、転職を視野に入れてみてもよさそうです。
最後に、マミートラックがない会社に共通する特徴を解説します。また、どういう会社だとマミートラックになりやすいかも紹介します。併せて確認してみましょう。
転職先を選ぶときの基準にもなるため、目を通しておくことをおすすめします。
働き方に応じた評価基準がある会社では、マミートラックが生じません。フルタイムにはフルタイム用の、時短には時短用の評価基準が適用される場合、人事評価の不公平感もなくなるでしょう。各々に与えられた役割が明確なため会社が期待していることが分かりやすく、努力の方向性がブレずにいられることもメリットです。
反対に、出張・転勤・海外赴任・土日祝日の勤務・残業などができないと評価につながらない会社では、マミートラックが生じやすくなります。子育て中はどうしても転勤や海外赴任しづらくなるため評価につながらず、いつの間にか昇格が遠ざかってしまうのです。
成果主義で人事評価している会社も、マミートラックが起きづらいと言えるでしょう。時短勤務をしていて働ける時間が限られていても高い成果を上げていれば、フルタイムと同じように評価してもらうことが可能です。無理のない範囲で責任のある仕事を任せてもらいやすく、キャリアと育児を両立できます。
一方、働く時間で評価する会社の場合は注意が必要です。どうしても残業・休日出勤できるフルタイムだけが評価されやすく、時短で働くママ社員の給料は上がりません。そもそも時短勤務している人を昇進の対象としていないなど、不公平感のある評価体制になっていることが多いです。
キャリア教育が充実している会社であれば、自らのスキルアップが期待できます。勉強会・セミナー・業界内外の交流会などを盛んに企画している会社であれば、参加のチャンスが増えるでしょう。「自分は確実に成長している」「学んだことを仕事に活かしたい」と思えるようになり、モチベーションも上がります。
反対に、従業員の自発的な学びを歓迎せず与えられた仕事だけこなしてくれればよいと考える会社に居続けると、キャリアアップの道が遠ざかります。働く意義を見失いやすくなってしまうため、あらかじめ注意しておきましょう。
自分のスキルを最大限活かせる会社であれば、評価される可能性が高まります。過去に習得したスキル・知識・実務経験をフル活用し会社に貢献することが、マミートラック脱却の第一歩と言えるでしょう。自分の強みを知り、ニーズのある会社に就職・転職することが近道です。
マミートラックが起きると、スキルがなくてもできるルーティンワークばかり依頼されやすいものです。自分の強みが何であったかも見失いやすくなるため、該当する環境にいる人は転職・相談など早めの行動を心がけましょう。
マミートラックにおちいると、昇進・昇格が遠ざかったりモチベーションが下がったり、さまざまなデメリットが生じます。働いている意義を見失い日々の張り合いがなくなるため、楽しみも見いだせなくなっていくでしょう。
今の会社でマミートラック脱却が難しそうな場合、転職を検討してよいかもしれません。今回紹介した「マミートラックがない会社の特徴」を参考に、自分に合った職場探しをしてみてはいかがでしょうか。